糖尿病は腎臓の働きに大きな影響を及ぼします。このことを糖尿病腎症と言います。
腎臓の働きが悪化することで、心臓病や脳卒中などの心血管疾患の発症も促進させてしまいます。
腎臓は生命維持に欠かせない臓器です。まずは、腎臓の働きから紹介します。
腎臓は、背中側の腰より少し上あたりに、左右に1つずつある、こぶし大のそら豆のような形をした臓器です。
透析の技術が進歩していない頃は、腎臓の働きが尽きることは生命が尽きることを意味していました。また、2000年頃までは、糖尿病が原因で透析になると5年生存率は50%程度であると言われていました。
しかし、最近は透析の医療器具や技術が進歩し、透析患者さんの生命予後は格段に改善しています。つまり、腎臓とは生命維持に直結する非常に重要な臓器なのです。
体内の不要なものを尿として排出する(尿をつくる)
腎臓の代表的な働きは尿をつくることです。全身を巡っている血液は、腎臓に運ばれてきて、網のような細い血管が集まってできる糸球体に流れ込みます。糸球体を含むネフロンは左右の腎臓にそれぞれ約100万個あり、その1つ1つで尿がつくられています。
糸球体でろ過された血液を原尿といいます。原尿は、細い管で集められ、体内に必要なものは再び吸収され、老廃物や不要物が余分な水分とともに尿として体外に排泄されます。
このように体内の水分量やイオンバランスを調整したり、体に必要なミネラルを体内に取り込んだりする働きがあります。
腎臓の働きが低下してくると水分量調節がうまくいかずに、体のむくみを引き起こします。
また、イオンバランスがくずれると、疲労感やめまいなど、体に様々な不調が現れることがあります。さらに腎臓の働きが低下すると、体内に老廃物などがたまることになり、この状態を尿毒症と言います。
血圧を調節する
腎臓は、尿中に排出する塩分と水分の量をコントロールすることで、血圧を調整しています。
塩分と水分の排出量を増加させると血圧は下がりますし、塩分と水分の排出量を減少させると血圧はあがります。
さらに腎臓は血管を収縮させるホルモンの分泌を調節することでも、血圧をコントロールすることができます。
腎臓の働きが低下すると、これらの調節が出来なくなり高血圧になりやすくなります。
また、高血圧自体も腎臓の血管にダメージをもたらし、腎臓の働きを悪化させることがあります。
骨を強くする
骨の成り立ちには複数の臓器が関わっています。
腎臓は、カルシウムを体内に吸収させるために必要な活性型ビタミンDをつくっています。
腎臓の働きが悪くなると活性型ビタミンDが低下し、カルシウムが吸収されなくなり、骨粗鬆症や骨折の要因になります。
赤血球をつくる
赤血球はヘモグロビンを含む血液の主要成分です。
この赤血球は骨髄の中にある細胞が、腎臓から出るホルモン(エリスロポエチン)の刺激を受けてつくっています。
腎臓の働きが低下してくると、このホルモンが出てこなくなってしまうため、血液が十分につくられず貧血になります。
何らかの原因で腎臓が障害されると、上記のような働きが低下してくることで、様々なリスクが生じてきます。この状態を慢性腎臓病と言います。
軽症の方も含めると、実は患者数は1300万以上いると言われています。
成人の8人に1人が慢性腎臓病の状態であり、糖尿病(患者数約1000万人)などと並んで、国民病であると言われています。
その慢性腎不全で新たに透析導入となる方の42.5%(2017年)は糖尿病が原因でありますし、33万人の透析患者の原因疾患は、糖尿病腎症が39.0%を占めています。
慢性腎不全と糖尿病は密接に関係しているということを示しています。
糖尿病が原因で生じる腎臓の障害として、糖尿病性腎症という概念が有名です。高血糖状態が持続することで、腎臓の細い血管(糸球体)がダメージを受けます。その結果、尿中微量アルブミンが検出されだします。
これが糖尿病腎症の最初の検査異常値になります。この状態を糖尿病性腎症2期といいます。
さらに障害が進むと、蛋白尿として認識されます。尿蛋白陽性となれば、糖尿病性腎症は3期です。ここまでは血液検査によってわかる腎機能の低下(クレアチニンの上昇や、eGFRの低下)は認めていません。
血液検査で腎機能の低下がわかるようになると、つまり慢性腎不全になり、腎症は4期になります。
さらに腎機能が低下し、透析になると腎症5期です。
これらを要約しますと、
糖尿病性腎症1期:腎症前期(腎臓のダメージが明らかではない状態)
糖尿病性腎症2期:早期腎症期(尿中微量アルブミンが検出される)
糖尿病性腎症3期:顕性腎症期(尿中蛋白尿が検出される)
糖尿病性腎症4期:腎不全期(血液にて腎機能の低下が確認される)
糖尿病性腎症5期:透析療法期(慢性腎不全が進行し、透析が必要な状態)となります。
以前は、1期→2期→3期→4期→5期と順番に進行していくと考えられていました。しかし、近年は上記のような典型的な経過をたどらない、糖尿病が原因と考えられる腎臓病が増加しています。
代表的な例としては、蛋白尿を認めないにも関わらず、血液検査でわかる腎機能の低下のみを呈するような症例です。このような状態の腎臓病を、「糖尿病性腎臓病」と呼びます。
糖尿病性腎臓病が生じる背景には、腎臓に障害をもたらす原因として、糖尿病以外の肥満、高血圧、脂質異常症、動脈硬化症、喫煙などの存在があるとされています。
つまり、様々な原因があるけれど、糖尿病も部分的に関与している腎障害であるともいえます。
典型的な糖尿病腎症以外の糖尿病性腎臓病が増えている要因として、糖尿病診療の進歩と多様化、糖尿病患者の高齢化、糖尿病以外の腎障害の増悪因子の増加などがあります。
その結果、現代の腎臓病の病態を包括的に捉えるために、糖尿病だけを考えておけばよい「糖尿病性腎症」だけでなく、糖尿病以外の要素も念頭においた考え方である「糖尿病性腎臓病」という概念が必要になっているのです。
それでは、「糖尿病性腎臓病」にならないように、あるいは悪化させないようにするために何ができるのでしょうか。
勿論、血糖コントロールをしっかりと行うことは大切です。
さらに、糖尿病以外の要素もしっかりと管理していく必要があります。
具体的には、
などが挙げられます。
また、血糖管理や血圧管理のために用いられるお薬の中には、血糖や血圧をコントロールするだけでなく、腎臓に対して保護的に作用するものも登場しています。
これらは直接腎機能を改善させるために開発されたものではありませんが、実は腎機能にも良い影響があることが判明したという薬です。
実は腎機能自体を直接改善させるようなお薬は現時点ではありません。
しかし、最近になって、直接腎機能を改善させる薬の開発が大詰めを迎えています。糖尿病性腎臓病に対する効果が非常に期待されています。